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インプラント手術時の静脈内鎮静法

患者さんの全身管理は歯科麻酔科医にお任せください!

インプラント手術に伴う患者さんのストレスは?

手術に先立つ恐怖心、外科的・時間的侵襲、さらに全身疾患の既往など、インプラント手術にともなう患者さんのストレスは予想以上に大きいものです。

先生方は・・・?

カウンセリングに始まり、術前検査、手術、さらには術後のメインテナンスにいたるまで、インプラント治療に際して先生がクリアーすべき項目は膨大です。

高度な技術が必要となるインプラント手術では、少なくとも患者さんの全身管理やペインコントロールは専門の歯科麻酔科医にお任せいただき、術者である先生には手術に集中していただくことも、高い精度の治療を成功させる上で重要なファクターとなるのではないでしょうか。

IVSの有用性

一般的に、IVSの有用性は以下のように言われています。

  1. 精神的ストレスの緩和
  2. 肉体的ストレスの緩和
  3. バイタルの安定化
  4. 健忘効果
  5. ペインコントロール
  6. 緊急時の対応

「恐怖心が強い方」や「全身疾患をおもちの方」に最適
→インプラント治療の適応が拡大します。

「患者さんが怖がっている」「高血圧症や心臓病などの全身疾患がある」という理由で、インプラント治療を積極的にすすめられなかったという経験をおもちの先生も多いと思います。

実際に、昨年1年間に私が行ったIVS症例の統計では、全94例中、恐怖心が強いという理由でIVSを行った症例が6例、異常絞扼反射が10例、何らかの全身疾患を有する症例が22例でした。IVSを併用することで、そのような患者さんに対しても安全で快適な診療環境を提供することが可能となり、結果として、インプラント治療の適応が拡大します。

IVSの成否は健忘効果にあり

健忘効果は、IVSの成否にかかわる大きな要素です。

「鎮静は、意識の抑制よりも健忘効果が重要であり、健忘があることが鎮静のend pointである」また「術中に感じた不快感を術後記憶していないことこそが、患者にとって有益である」といわれることもあります。

【IVS下で行ったインプラント治療の手術中の記憶に関しての報告】

(日本歯科麻酔学会雑誌、33(5)、714-719、2005)

全60名    
「よく覚えている」
0例
「だいたい覚えている」
13例
「あまり覚えていない」
26例
「全く覚えていない」
21例

歯科治療に対して恐怖心をもたない患者さんであっても、インプラント手術 時には完全な健忘を望む傾向があるとのことでした。

IVSのもたらす健忘効果は、患者さんにとっても、術者である先生方にとっても、非常に望ましい効果といえます。

ペインコントロールこそ重要

歯科麻酔科医にとって、ペインコントロールは重要な仕事の一つです。術後の浮腫や疼痛対策として、処置中からステロイドホルモンや鎮痛薬を静脈内投与することも可能です。

ステロイドホルモン   鎮痛薬
ステロイドホルモン   鎮痛薬

pre-emptive analgesia(先制鎮痛、先取り鎮痛)という言葉をお聞きになったことがありますか?これは、手術により組織の損傷が引き起こされる前に、神経遮断あるいは鎮痛薬の投与を行うことで、中枢神経系の感作を予防し、術後痛を軽減させようという概念です。術後痛の軽減は、創傷治癒の促進にも効果的に働くといわれています。侵害刺激の入力遮断としての局所麻酔もその一つです。局所における二次痛および末梢性感作抑制を目的としたNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)、中枢性感作抑制を目的とした麻薬性鎮痛薬の投与などが有効とされています。

周術期を通じて、いかに確実な疼痛管理を行うか…それはインプラント治療全体の印象を左右する大きな要素です。

モニターは患者さんの代弁者です。

手術中の継続的なモニタリングは、患者さんの感じた「痛み」や「不快感」をいち早く知ることができるという点で有効です。

問題となるのは、患者さんに「痛み」や「不快感」を感じさせてしまうことではなく、患者さんが「痛み」や「不快感」を我慢してしまうことで、局所麻酔が効きにくくなったり、神経性ショックなどの全身的偶発症を引き起こしてしまうことです。つまり、患者さんから「痛み」や「不快感」の訴えがある前の段階で、モニター上のバイタルサインの変化から患者さんの状態を読みとり、適切な対応を迅速に行うことで、負のサイクルを断ち切ることができます。

処置時間が長くなる→局所麻酔効果が減弱する→疼痛が発現する→血圧が上昇する→出血量が増加する→術野が不明瞭となる→さらに処置時間が長くなる。

このような悪循環を回避するためにも、モニターを上手く活用し、状況によっては、鎮静薬以外の薬剤を用いて患者さんの全身管理を行う必要があります。

モニターは患者さんの代弁者です。

モニタリングと局所麻酔の切っても切れない関係

局所麻酔薬の選択にあたっても、モニタリングはかなめとなります。「全身疾患の有無」だけで局所麻酔薬を選択するのではなく、患者さんの状態をモニターで把握し、根拠に基づいて決定することが重要です。また、モニタリングを行うことで、局所麻酔薬の選択肢が広がることもあります。

何本以上になったら、IVS?

埋入本数が多い場合、サイナスリフトや骨移植などの大きな侵襲を伴う症例では、IVSの併用は必須ともいえます。手術中に患者さんが受ける肉体的ストレスのなかで、最も大きいのはもちろん「痛み」ですから、確実な局所麻酔操作を前提とした疼痛管理は不可欠です。

一方、時間的な侵襲も無視することはできません。長時間にわたり同一体位を強いられることにともなうストレスは思った以上に大きいものです。IVS下であっても、手術時間が1時間半から2時間におよぶようになると、ほとんどの患者さんが体動を示します。同時に、バイタルサインの変動が大きくなります。また、ドリリングや骨ノミによる振動を不快ととらえる患者さんも多いようです。

「何本以上になったら、IVS?」というご質問をよく受けますが、一概に埋入本数のみで判断することはできません。しかし、少なくとも、術野が両側もしくは上下にわたる場合、サイナスリフトや骨移植などの補助的手術が必要となる場合には、IVSをおすすめしています。

「大きな手術はしないから、IVSは必要ない」とお思いではありませんか? インプラント治療を始めてまもない先生方にこそIVSをおすすめします!

IVSは患者さんのためだけのものではありません。そして、サイナスリフトや骨移植を多く手がけるスペシャリストの先生方のためだけのものでもありません。

IVSは、「少しでも手術そのものに集中したい」という術者の思いにも合致した方法です。INSによって患者さんのストレスが緩和されると、術者である先生方のストレスも軽減されます。その結果生まれる心のゆとりが、患者さんにより確実で精度の高いインプラント治療を提供する裏づけとなるはずです。

特に、新しいシステムを用いて手術を行う場合やオペサポートの先生と一緒に手術に臨む場合などにおすすめしています。

「この血圧のまま治療を始めてもいいのか?」「患者さんは痛みを感じていないだろうか?」「もう少し局所麻酔を追加したいけれど…」、そんな時、先生ならどうなさいますか?

自分に代わって患者さんを見守り、そして、どんな時でも冷静な判断を下せる第三者がかたわらにいるという安心感…先生方の診療のなかにわれわれ歯科麻酔科医をうまく取り入れてください。

何よりも患者さんのために… 90%以上が次回もIVSを希望

歯科治療に対して高いニーズが求められる昨今、インプラント治療の分野でも、安全性はもとより快適性が問われる時代が到来しつつあります。

インプラント手術の際にIVSを受けた患者さんに対するアンケート調査では、90%以上の方が次回の手術でもIVSを受けたいと回答したという報告があります。

何よりも患者さんのために、IVSの導入をご検討ください。

ここまで、インプラント治療におけるIVSの有用性について、私なりの考えを述べてきましたが、本当の意味で患者さんの気持ちをくみ取ることができるのは、まさに窓口となる先生方にほかなりません。多くの先生にその有効性をお知りいただき、IVSというよりは、むしろ歯科麻酔科医を加えたチーム体制での治療がインプラント手術におけるスタンダードとして認識されるようになれば幸いです。

インプラント手術を始めてまもない先生には「安心感」を、経験をつんだ先生には「さらなる適応の拡大」を、そして、患者さんには「快適な環境」を、IVSはインプラント治療における付加価値の向上に必ずや寄与するものと思います。

 

実績

平成17年4月〜平成18年3月に実施した「インプラント手術時のIVS」の統計結果を示します。

全症例数 : 94例(開業歯科医院12件)
年  齢 : 53。3±12。4歳
処置時間 :85。8±47。3分
インプラント埋入本数 : 3。6±2。1本
サイナスリフト、骨移植など : 22例

国際歯科麻酔学会(IFDAS)(平成18年10月6日、パシフィコ横浜)にて発表